始まりのショー

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教室を出てすぐ、葵は友愛の手を握りしめた。 突然手を握られた友愛はあたふたする。しかし、そんな友愛にとどめをさすかのように葵は抱きついた。 「ありがとね友愛!愛してる!」 「でも珍しいね。葵が天上君に言い負けるって」 「べ、別に言い負けたわけじゃないわよ!ただ…」 「ただ?」 葵の脳裏に十年前のある出来事が浮かび上がったが、彼女はそれを払拭するように頭をブンブンと振る。 「ううん、なんでもない。それより早く職員室行こ」 生徒たちの教室があるA棟から職員室や音楽室、美術室があるB棟に行くためには三階にかかる渡り廊下を行かねばならない。 おしゃべりをしながら職員室を目指していた二人の話題は、その渡り廊下にさしかかった頃、担任に対するものになっていた。 「それにしてもなんで厳ちゃん私たちのこと呼び出したんだろ」 千座厳丸(せんざげんまる)。通称厳ちゃんは葵たちの担任にして、大学を卒業したての新任教師である。 小学校の頃から大学までずっと柔道をしてきたらしく、その鍛え上げられた体格とゆうに百九十センチを越える身長は威圧感を十分に備えている。 しかし性格は天然かつ温厚、しかも若々しく整った顔立ちで彼が女子生徒の人気を集めるのにそう時間はかからなかった。 そんな千座先生の事を良く思わない生徒(ほぼ男子)は陰で、性格が名前負けしている。とか、元傭兵らしい。とかあることないこと言い合って、普段のストレスを発散していた。 「多分来週ある大縄大会の話じゃない?私たち体育委員だし」 「そっか。厳ちゃん張り切ってるだろうね」 「どうかな。先生って争い事嫌いそうじゃない?」 「そんなわけないわよ。だって十何年間も柔道やってんのよ!?」 「それもそうだね」 先生の話も終わった頃、二人は職員室に到着していた。
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