始まりのショー

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「失礼しまーす」 葵がドアを開ける。 狭い通路を、先生たちの間を潜り抜けながら奥まで進むと、書類などが綺麗に整頓された机で千座先生は何やら真剣にノートパソコンと向き合っている。 葵が「厳ちゃん?」と呼び掛けると、大きな体をビクッと震わせ、千座先生はやましいものを隠すように急いでノートパソコンを閉じた。 しかし、やって来たのが葵と友愛だとわかるや否や強張らせた顔の筋肉を弛緩さた。 「あぁ小飛音と美濃旗か」 「今何調べてたの?まさかエッチな動画見てた!?」 職員室にいた先生たちの視線が千座先生に向けられ「いや!違いますよ!!」と弁明をしたあと、千座先生は葵の頭を小突いた。 「で、何調べてたんですか?」 友愛が葵とは違い、落ち着いた様子で問う。 「今度綱引き大会があるだろ?だから綱引きの必勝法とか調べてたんだよ」 そう言って千座先生は『これで完璧!綱引き必勝法!!』と赤いペンでタイトル付けされたルーズリーフの束を葵たちに渡した。 その中身は丁寧なイラストと共にびっしりと綱引きについて書かれている。 葵はこれを見て一週間は費やしているなと感じた。 「どうだ?凄くないか!?」 子供のように目を輝かせる千座先生に対して、見ていられなくなったのか、友愛が指摘する。 「先生、綱引きじゃなくて大縄です。縄を引っ張るんじゃなくて跳ぶんです」 「え!?嘘…」 慌ててファイルから書類を取り出した千座先生はガックリと項垂れる。 「ほ、ほら!熱意は伝わったから!!」 葵たちは色々と言葉を選びながら項垂れた先生をはげましつづけた。 そうこうしているうちに休み時間の終了を告げるチャイムが鳴る。 「やばっ!じゃあ厳ちゃん、私たち行くから」 去っていった二人と入れ替わりに教頭先生が彼のもとへとやって来た。 「千座先生、お電話ですよ」 「あ、ありがとうございます。はい、千座ですが」 受話器を受け取った千座先生は、向こう側から聞こえてくる声を聞くと小さな声で「ついに来たか」と言って電話を切った。
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