71人が本棚に入れています
本棚に追加
病院に着き、蒼空はいつものようにエレベーターを使おうとしたが、二つあるどちらもなかなか来ないし、来ても病室のベットでいっぱいだったりしてなかなか乗れなかった。仕方なく普段は使う事のない階段で、母のいる病棟まで登った。
「こんにちは。」
「あら蒼空君、こんにちは。お母さんに会いに来たのね。でも今はちょうど検査に行ってるから、病室の方にどうぞ。」
今より幼い時からお世話になっているため、蒼空は病院内ではちょっとした有名人だった。看護師達の間で『大きくなったらきっと美形になるわよ』とか『小さな天使ちゃんよね』とか、色んな噂が広まっていた。でもそんな事を当の本人が知るはずもなく、全てみんなの妄想だった。
蒼空は軽くお礼を言うと、母が使っている病室に入った。中にはやはりまだ母の姿はなく、開いた窓から入る風が、カーテンをゆらしていた。
開いていた窓からボーッと外の景色を眺めながら、蒼空は溜息をついた。誰にもまだ言っていない事だが、こうして学校が終わってからここに来る事はよくあるけど、時々それだけで凄く疲れる時があった。
「・・・・ツっ・・・。」
突然眩暈が襲ってきて、蒼空はとっさに近くにあった点滴を下げておく点滴棒をつかんだ。しかし彼の体重を支えきれず、カシャンと大きな音とともに蒼空はその場に座り込む。
「・・・・ハアッ、ハアッ。」
続けざまに動悸も襲ってきて、蒼空は胸のあたりをギュッとつかんだ。
その時、ふわりと蒼空を優しく包み込む存在が現れた。
「蒼空、来てたのね。病室から大きな音がしたから、何かと思ったわ。・・・大丈夫?」
「・・・・ハアッ、ハアッ。おかあ、さんっ。」
彼女はただ優しく・・・息子の頭をなでた。
「今大きな音がしたが、何かありましたか?咲空(サクラ)さん。」
そこに入ってきたのは藤岡だった。彼は看護師から蒼空がもう来ている事を聞き、ここにやってきた。床に倒れた点滴棒と、咲空が抱きしめている蒼空が苦しそうにしているのを見て、大体の状況を理解した。
「蒼空、どうした?何があったんだ?」
藤岡は聴診器で蒼空を診ながら聞いた。
「・・・・外見てたらっ、急に眩暈がして、胸がドキドキしてっ。」
やっと落ち着いてきた蒼空は、少しずつ言葉を口にする。
最初のコメントを投稿しよう!