6.たった一言、言いたくて

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「……だったよね?あの時叫んだ下の名前。」 加村さんは、何でもない風にふふっと、笑った。 「あ、あのっ!?はい……。」 さっきまで、大声を出せていたのに、急に尻すぼみな声になってしまった。 ドキドキ。 ドキドキ。 名前を呼ばれただけで、鼓動が速くなる。 電話しているだけで、とても嬉しい。 これを、「恋」と言わずに、何と呼ぶのか、私には分からない。 だけど。 加村さんの「恋」のベクトルは、別の方へと向いていたのだ。 あたしが彼を知らないときから、ずっと「あの人」へと。
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