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「ふふっ、その子、面白いわねぇ。」
とある病院の小部屋で、白衣を着た女性と患者の男は、話をしていた。
女性の左胸に留められているネームプレートには、
“臨床心理士 新橋亜犁安”
と、書かれている。
「えぇ、いつも彼女には、笑わせられますよ。」
クライアントの加村悠輝は、優しい目付きで相手の女性のことを見て、答えた。
「よく笑うし、声が大きい、それに自分の名前を思いっ切り叫んだりする。」
指を一本ずつ折りながら、悠輝は言った。
「でも、もうすぐすると悠輝くんは、勉強が忙しくなるから、バイトで会えなくなっちゃうわね。……寂しい?」
心配そうに顔を覗き込まれて、悠輝はムッとしたような表情をした。
それを取り繕うように、彼も寂しそうな顔をする。
いや、これは自然に出た表情でもあった。
「僕には……、好きな人がいますから。」
目を伏せがちにして、彼は言う。
「あ!そうだったわね!どんな人?」
「いつも、悠輝くん、教えてくれないんだもの~。」と、新橋は質問した。
「秘密です。」
切なそうに笑って、悠輝は人差し指を自分の口に当てる。
「そっかぁ。上手くいったら、良いね。」
新橋は、それ以上追求せずに、話を完結させた。
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