1.あたしの名前

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「加村さ……。」 状況を説明しようとしたあたしの横を通り抜けて、男性店員は、さっきのおばさんに話し掛ける。 「お待たせしております。只今、コーナーの方にご案内します。」 スマートな応対に、女性客は、コロッと態度を変える。 「あらっ!?来たわね。よろしく。」 おばさんは、ニコニコと微笑みながら、カウンターを離れて行った。 その姿を遠目で見ながら、あたしはイライラする。 (何アレ!加村さん、あたしを無視して、あんな色目を使ってくるお客さんには親切にして。) 不毛。 完全に不毛な嫉妬をしていた。 そう、あたしは、加村悠輝(かむら・ゆうき)さんのことが好きなんだ。 バイトに入って、まだ少ししか経って無いから、名前と、ちょっとの情報くらいしか知らないんだけど。 彼はこのバイトは始めて2年近くらしい。 年は、20歳くらい……、大学生なんじゃないのかな? シフトも、月曜の正午からとか木曜の午前とか、高校生であるあたしには入れない時間帯に入ってるから。 土曜である今日だけが、一緒に働ける嬉しい時間なんだ……。
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