天狗道 ~幼少記~

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   小さな林を抜けると天七木の屋敷だ。鬼灯は初めて屋敷というものを目にしたようで、端から端まで見渡した。  久々に昼間のうちから屋敷へ戻ってきた俺の姿に、門番が訝(イブカ)しげな視線を向ける。門番は名を栄之助(エイノスケ)といって、この頃門番としての仕事を任せられるようになったばかりの若い男だ。 「なんだ、款冬か。こんな時間に帰ってくるとは珍しいな」  俺より五、六歳ほど年上だが楠木との争いに関心が無いらしく、天七木の中で唯一俺がため口を利ける相手だった。ただ、いびりはしないというだけで助けることもしない奴だったので、特に親密という関係まではいかなかった。 「後ろの者は誰だ?」 「こいつは鬼灯って者で……」 「鬼灯?……」  その時栄之助が一瞬顔をしかめた理由は、単に奴の名が変わっていたからだろうと思った。後になって考えれば、それもあながち間違いではなかったのだが。 「こいつのことで弘則(ヒロノリ)様に話があるんだ。連れて入っちゃ駄目か?」 「そんな小汚い格好をした者を連れて入るのはまずいだろう。……あぁしかし、旦那にわざわざ表まで出て来てもらうのも何だかな……。わかった、少し待ってろ」  栄之助は別の門番に何やら耳打ちし、連絡に行かせた。返答を待っている間も、俺と鬼灯は言葉を交わさなかった。
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