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鬼灯(ホオズキ)と出会った頃はまだ何とか自我を保っていたものの、間もなく始まった天七木(アマナギ)家からのいびりに堪えることが出来ず、鬼灯が密かに住み処にしていた町外れの祠まで出ては泣き、夕飯時になるとまた天七木の屋敷に戻るといった日々を半年ほど繰り返した。
鬼灯にも度々小言を受けたものだ。
「お前も武士の子なんだろう?いつまでも泣いてばかりいると、もっと舐められるぞ」
俺の持ってきた食物を頬張りながら、鬼灯は毎度呆れたように眉間にしわを寄せた。
だがこちらもこちらで、鬼灯の芯の強さには毎度感心させられていた。歳は同じだというのに、どこかしら大人びた面をちらつかせるのだ、あいつは。
これも江戸で親に捨てられてから数々の試練を乗り越えてきた結果なのだろうかと、子どもながらに考えてみたりした。
「おれも、款冬(ヤマブキ)に頼りっぱなしじゃいけねぇな」
いつからか鬼灯はそう言い出し、町で仕事を探すようになった。俺もそのあとをくっついて歩き、時間を潰した。そんな日がまた一月ほど続いた頃のことだった。
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