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茶屋や呉服屋、銭湯など様々な所を回ってみたが、どこも人手は足りている、他に払う金の余裕など無いと言って、相手にする者はなかった。
残っているものは子どもにはきつい力仕事ばかり。鬼灯は仕方ないと最も近場の大工店を訪ねた。そこの店番をしていた親分がまた、恰幅が良くもタチの悪い男であった。
「働きてぇだぁ?おめぇ、名前は何てんだ」
「ぁ、あー…名前…」
鬼灯と俺は顔を見合わせた。実はこの頃、俺も鬼灯の名前は知らなかった。奴の小物入れに「鬼灯」と文字が刻んであるのは見たが、二人ともその読み方が分からなかったのだ。
「あ?名無しの権兵衛か?」
「う……」
「まぁ名前がどうであれ、細腕に何が出来るんだっつー話だ。帰んな」
「か、体はこれから鍛えます!」
「がっはっは!なら鍛えてから出直してきな!どのみちそんな薄汚い目をした者に教える仕事は…」
思えばこの頃から、鬼灯は喧嘩っ早い性格だったのだろう。俺がまずいと思った時にはもう遅かった。鬼灯はキッと相手を睨み返し、口元に引き攣った笑みを含んで言い放っていた。
「ふん、せいぜい今のうちに侮辱しておくんだな。おれがお前と同じ歳になる頃には、こんな無礼を働けばお前の首なんて簡単に飛ぶぞクソが!!」
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