天狗道 ~幼少記~

5/22
前へ
/23ページ
次へ
  「……っは…放しやがれ……、ん…ッの野郎!!」  鬼灯は窒息寸前に店番の腹を蹴り、己の首元が解放されるとその場にうずくまった。肩で息をする鬼灯が視界に入る。何とか助かったと思いかけて、次の瞬間、俺は息を呑んだ。  逆上した店番が、鬼灯を堀に投げ落としたのである。ばしゃんと水しぶきが上がった。 「そこで頭冷やしとけ、小僧!!」  喧嘩を見物していた何人かから小さく悲鳴が聞こえたが、介入して助けようとする者の気配は無い。 「あ……!」  俺も足の痛みを忘れ、人混みの中を駆け寄った。ここのところ晴れ続きで水かさは増しておらず、流れも穏やかだった。だが鬼灯は水底で強く後頭を打ち付けた様で、気を失っていた。  その姿を見るなり恐怖と焦りに思考を掻き乱され、俺も堀の中へ下りようと足を伸ばした時だった。 「待て」  店番の大工とは別の男の声が、すぐ近くで聞こえた。 「お前も怪我してるんだろう?ここに残ってろ。俺が行く」 「!?」  自分に話しかけているのだと気付いた俺が顔を上げると、男はすでに堀へ下りていた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加