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「……っは…放しやがれ……、ん…ッの野郎!!」
鬼灯は窒息寸前に店番の腹を蹴り、己の首元が解放されるとその場にうずくまった。肩で息をする鬼灯が視界に入る。何とか助かったと思いかけて、次の瞬間、俺は息を呑んだ。
逆上した店番が、鬼灯を堀に投げ落としたのである。ばしゃんと水しぶきが上がった。
「そこで頭冷やしとけ、小僧!!」
喧嘩を見物していた何人かから小さく悲鳴が聞こえたが、介入して助けようとする者の気配は無い。
「あ……!」
俺も足の痛みを忘れ、人混みの中を駆け寄った。ここのところ晴れ続きで水かさは増しておらず、流れも穏やかだった。だが鬼灯は水底で強く後頭を打ち付けた様で、気を失っていた。
その姿を見るなり恐怖と焦りに思考を掻き乱され、俺も堀の中へ下りようと足を伸ばした時だった。
「待て」
店番の大工とは別の男の声が、すぐ近くで聞こえた。
「お前も怪我してるんだろう?ここに残ってろ。俺が行く」
「!?」
自分に話しかけているのだと気付いた俺が顔を上げると、男はすでに堀へ下りていた。
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