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「俺も漢字は得意じゃないが、それなら読めるな。お前もこの植物の名前ぐらいは知ってるはずだぞ」
「植物?」
「中に丸い実がなって、紅い袋の皮があるやつだ。子どもは玩具にしたりもする」
「…………」
暫し、その男の横顔に見入った。ほとんど表情を変えず、時折口の端を上げて笑う男の仕草が、どこか鬼灯に似ていたからだ。
「分からないか?」
俺は気のせいだと心の内で首を振り、答える素振りを見せて男が正解を言ってしまうのを止めた。男はまた少し笑う。……やはり、あいつに似ていた。
「ほおずき……?」
「あぁ、当たりだ。まぁ苗字だろうがな。次から奴のことはそう呼んでやれ」
そこまで会話が進んだ時、医者が診療部屋の中から顔を出して男を呼んだ。俺も長椅子に腰掛けたままであるよう思わせて、閉まった戸に耳を当てて彼等の声を聞いた。
「後頭の出血はそこまで酷くないが、先から目を覚まさない。水もほんの少ししか吐き出さなかったし、この調子だと或いは……」
「やめてくれ!」
俺は思わず戸を開け、医者の言葉の続きを遮る様に叫んでしまった。
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