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男も医者も目を丸くしたが、俺は構わず鬼灯が横になっている寝台へ駆け寄り、その体を揺すった。
「おい鬼灯起きろ!」
「こら、やめなさい!」
医者の声が響き、男も落ち着けと言って俺の脇に腕を回した。きっと俺と鬼灯が逆の立場だったならば、奴はどんなに自分の動きを封じられようと医者を罵倒しただろう。「ちゃんと診たのか、この藪医者!」などと言って。
だがそれでは八つ当たりだ。理性で判断出来る分、俺のやりきれない想いは鬼灯へ向いた。
「鬼灯!!」
あれだけ毎日俺に生きる勇気を与えてくれたお前が死んでどうするのだと。男の手を振り解こうとすればするほど、視界は滲んでいった。
「ッ……鬼灯ぃ……」
やはりこの細腕ではどうにも抵抗の仕様が無かった。最後の最後に出来る限り手を伸ばして奴の帯だけ掴み、暴れるのを止めた俺を男が抱え込んだ形のまま、部屋は静まり返った。
不意に誰かが咳込む声が聞こえた。秋も深まる季節だ、風邪が流行っているのかもしれない。無気力にそう思ったが、遅れて違和感を感じた。
……おかしい、今日は俺達以外に患者は居なかったはずだが。
俺が顔を上げると、鬼灯が大量の水を吐き出しているところだった。
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