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鬼灯は中途半端に起き上がって幾度か咳込み、半開きの目で辺りを見回した。やがて俺の顔を捉えて焦点が合うと、不思議そうに眉をひそめた。
「な……、何でそんな顔してるんだ……」
「~~~~……っ、」
思った以上に元気そうなその表情を見て、一挙に安堵の念が込み上げてきた。
嗚咽だけではどうにも抑えられなかった。
俺は勢いよく鬼灯の体に抱き着き、うわぁああと声を荒げて泣いた。締め付けの強さに鬼灯が「いでで」とか「あぁ鬱陶しい、離れろ」とか言うのが聞こえたが、俺は離さなかった。この時が生涯で最も涙を流した時だったに違いない。
もう俺を独りにしないでくれと必死に頼み込んだのに、鬼灯は珍しく声を出して笑った。
「おれがそんな簡単に死ぬわけ無いだろう」
「笑うな!現に死にかけてたんだよ、この阿呆!おっ、お前があの親分に…っ、喧嘩なんて売るからぁ――――」
再び俯いて泣き出した俺の背を軽く叩いて摩り、特に悪びれる様子も無く「悪い、悪い」と言うのが聞こえた。
「おれを心配してくれたんだな。……ありがとうな」
鬼灯が「ありがとう」という形で表現したのは、出会ってから初めての事だった。それまで感謝の言葉といえば「恩に着る」や「助かる」ぐらいしか言わなかったのだ。
まぁ結局、後にも先にも奴がそう口にしたのはこの一回切りだったのだが。
「さぁ行くぞ餓鬼ども。ここは病院だ、健康な奴は外に出た出た!」
医者にも外出だけなら問題無いと言われ、男の促しで俺達は敷地の外へ顔を出した。闇慣れしていたせいで、太陽の光がひどく眩しく感じた。
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