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少年は両手に力を込め操縦する機体を百八十度反転させると、閃光の如く全速力で逃げ出した。急な加速で火花が散る。
「やべぇ、はずしちまった……!!」
少年は自分の顔から血の気が引いていくのが分かる。叶うなら……もう一度始めからやり直したかったが、それは所詮叶わない夢だと悟るとすぐに目の前で起こっている現実に意識を集中させる。
彼のすぐ後ろに鈍色に輝く三体の合金製の2足歩行型ロボットが続く。起伏の激しい岩肌を滑走した少年は器用に蛇行してそれを躱す。
あわよくば、後方からやってくる敵が岩に激突して自滅してくれることを願っていたが、完全制御された正確無比のロボット達には通用するはずもなく。少年との距離は縮まるばかりだった。
「このままじゃあ、やられちまうよ」
無限に続く荒野は、どこか別の惑星にやってきてしまったかの様な錯覚に陥る。ただ一つ違うところは、それが頭上にも広がっていることだろうか。
そう、ここは巨大な洞穴。なぜ推測然とした表現なのかというと、正直少年もここがどこだかわかっていないからだ。
彼の任務は、今まさに迫っているアンドロイド達を遠距離用ライフルで撃ち落すことだった。遠巻きにある岩陰に潜み、好機を伺っていた少年だったが、アンドロイド達は遠距離ライフルの射程距離からわずかに逸れた位置で停止した。
最初はアンドロイド達が動き始めるまで固唾をのんで待ち構えていたのだが、彼には堪え性がなかった。自身に一番近い標的に向けてライフルの引き金を引いた。
結果、射程距離内であれば外すはずのないミサイルにもかかわらず、三体のアンドロイドのわずか手前の岩礁に激突してしまったのだ。
かくして追われる身となった少年が自分の行動を後悔する暇はなかった。遠距離ライフルを地面に放り出すと無心で逃げ出したのだ。
少年が操縦するのは二足歩行型ロボット、スパイダー。薄い茶褐色の貧弱な機体は一見、黄ばんでいるようにも見える。右肩部分のサイドには「訓練生」の文字が恥ずかしげもなく表記されている。
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