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細い岩と岩の間から抜け出した少年は、青空の広がる地上へと辿り着いた。
「空だ。七年ぶりに見た地上の青空だ――」
少年は無限に広がる景色に胸を打たれていた。結果、自分の状況を把握できてはいなかった。
彼の両脇腹には、二本のブレードが突き抜けていた。それに付随する二体のロボットをぶら下げた状態で、彼はなおも上昇していたのだ。
しかし、その勢いも次第に減速していく。
「うおおっ……もっと……もっと高く――」
無情にも重力が彼を下降させていく。
少年は、自分の口から流れる鮮血すらも気に留めてはいなかった。
ただ、目の前に広がる青空とそこに浮かぶ真っ白な雲を掴むように左手を突き出す。
「いつか……いつの日か必ず……もう1度あの雲を掴んでみせるっ」
そこで少年の視界がフェードアウトされる。先程まで映し出されていた青空は、一瞬にして消え去り、黒一色になった。さらに、赤い文字で『You Are Dead』の文字が浮かび上がる。
しばし、眼前に表示される三Dテキストを呆然と眺めていた彼の耳に軽妙な声が響く。
「もう、なにやってんのよ。レンっ。これが訓練じゃなければあんた、死んでたのよ? 」
「…………」
少年は呆然と背もたれに身を預けたまま、何も答えなかった。
「レン……アサギ・レン。聞いているの? はぁ……まったく。あんたは罰として床掃除してなさいよっ。戦う気のない奴はここには必要ないのよ……」
語調を荒げた声の主に、ようやくレンと呼ばれた少年は重い口を開いた。
「はいはい、レベル三の愛染ユウリ隊長。隊長のご指示通り床掃除でもしていますよ」
「もうっ、そうやってすぐにイジけてんじゃないわよ。だいたいアンタは――」
彼女はまだ何か言いかけていたが、レンはすぐに通信を切ってしまった。
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