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「レン。どうでもいいけどブツブツ一人でしゃべってると変な人に思われるよ」
「どわあっ。いつからいたんだよ。……たまには昔を語りたいときもあるんだよ」
いつの間にか隣を歩いていた少女に不意を突かれたレン。
「昔って、私らまだ十七年しか生きてないけどね」
彼女の名前は、愛染ユウリ。レンと同い年、さらに同期で最優秀の彼女はすでにレベル3だ。才媛かつ洗練された容姿も持ち合わせているユウリ。しかも、すでにレベル4の候補に選ばれる程だというのだから、レベル2止まりのレンと比べるのも虚しくなる。
部隊隊長となるレベル4の候補である彼女からついたあだ名は『愛染隊長』だ。同期では一番仲の良い女友達といったところだろう。
彼女は栗色の長い髪を掻き揚げると、ため息交じりでレンに言った。
「はぁ。レンはいったい、いつまでレベル2でいるつもり。あんな訓練内容じゃあ、一生レベル2かしら? 」
「好きでレベル2に留まってるわけじゃねぇよ。俺だって早く実践で戦いたいさ」
レンがそう言い返すと、
「さっきみたいに半端な戦いして逃げられちゃ困るけどね……。あーあ。二年前の入校テストで史上最速の反射神経記録を打ち立てたどっかの天才さんはいつになったら実戦デビューできるのかしらっ。 そのご自慢の反射神経もスパイダーに乗れなきゃ話にならないわよ」
スパイダー、それはAIの搭載されていない人間が操縦することのできる二足歩行戦闘マシンである。
微弱電磁波と生体電気を結びつけることで搭乗したパイロットの脊椎と脳に直接リンクして操縦するこのタイプの機体は、操縦者の反射神経がそのまま戦闘に影響するのだ。
どうやら入学テストで受けた反射神経を測るテストで、ユウリを上回る驚異的な記録を叩き出したらしい。おかげで入学直後から、同期に奇怪な目を向けられたことを覚えている。そんな中、ユウリだけが分け隔てなく話しかけてきてくれた。まぁ、彼女もレンとはちがう意味で奇中の奇とも呼べる存在だった。
栗色のロングヘアーに、大きな瞳の少女。とても傭兵とは思えない小柄な体躯だが、ひとたび戦闘モードになれば、スパイダーの超高速をものともせず圧倒的な戦闘能力で優雅に舞う。
彼女は、同期の中でも一、二を争う華麗な容姿の少女だった。
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