前編.本当の生存者

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 上高生連続殺人事件――20XX年3月25日夕方、私立上風[カミカゼ]学園高等部の生徒が五人連続で殺害された事件。  被害者はいずれも高等部の二年生であり、石谷翼[イシタニツバサ](17)・島崎亜依[シマザキアイ](17)は町外れの倉庫内、竹澤朋哉[タケザワトモヤ](17)は自宅二階の自室、出雲晟太[イズモセイタ](17)・朝比奈未詠[アサヒナミヨ](17)は高等部の科学準備室で、それぞれ遺体が発見された。  ……あの痛ましい事件の三日後。現場に残されていた唯一の生存者である藍川候[アイカワミヨ](17)が、事情聴取の直前に病院から失踪し、現在行方不明になっている。  俺は要点をまとめたファイルを閉じて溜息をついた。今までにも何度か知り合いの警察官から刑事事件の捜査依頼を受けたことがあるが、ここまで複雑なものは今回が初めてだった。 「やっぱり僕、あの図書委員の子が怪しいと思うんですけど」  事件の概要を聞いてからずっと意見を変えないままでいるそいつは、笹原武一[ササハラタケイチ](25)。前に一度共に事件を捜査して以来、俺が初めてこの探偵事務所に招き入れた男。  いかんせん面倒臭がりな部分が玉に瑕(キズ)だが、その洞察力には目を見張るものがあったのだ。
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