前編.本当の生存者

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   その笹原の推理をもってしても、今回の事件は実に不可解なものだった。  捜査中に発見した殺人計画書により、出雲晟太が石谷翼と島崎亜依を殺害したことが明らかになった。  しかし計画に組み込まれていた竹澤朋哉と朝比奈未詠の殺害については、犯人が断定できないのである。事件当時、竹澤一家は長男の朋哉に留守を任せて外出中であり、誰も犯人を目撃していない。  さらに、一連の犯行に使われた凶器の包丁にはあきらかに出雲晟太の指紋が付着していたにもかかわらず、竹澤朋哉殺害の際に使われたと思われるバットからは、持ち主である被害者本人の指紋しか検出されなかったのだ。  包丁の方からは出雲晟太だけでなく、朝比奈未詠と藍川候の指紋も検出された。最終的に出雲晟太は科学準備室で遺体が見付かったが、その手足が拘束されていたことや、綿密な殺人計画書の存在等からも、自殺はまずありえない。それが余計に捜査を混乱させる。  状況的に考えて、出雲晟太を殺害できたのは朝比奈未詠と藍川候の二人。だがどちらも動機が見当たらない。朝比奈と出雲の間に接点はほとんど無く、藍川については交際中の相手であり、ずいぶん仲が良かったと聞いている。 ……誰が誰を殺害したのか? ……その動機は?  一切が謎に満ちたまま、捜査は難航していた。
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