●門前にて●

2/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
とある昼下がり。 抹茶に良く似た色の着流しを纏った男性が、屋敷前の道に散らばった小さな葉や花弁を竹箒で集めている。巨体を折り曲げて集めた塵を纏めると、彼は小さく息を吐いた。 「…ま、こんなもんやろ」 門の前に立ち、左右に視線を向ける。清掃の成果に満足げな笑みを浮かべると、彼は一度背を伸ばした。 快晴とまではいかないが、穏やかで暖かな日だ。屋敷に集まる仲間達も各々自由な時間を過ごしている。 一仕事終えたのだから、自身もその仲間入りをしよう。気持ちも軽く用具を片付け始めた矢先、彼の背後を誰かが通り抜けた。 屈む背、振り返ろうとする彼の鼻先にふわりと香りが届く。甘い香りは通り抜けたその正体を女性だと告げた。 「ん?…んー?」 首を傾げる。師の話では、今日この屋敷を訪れる『客人』は居なかったはずだ。辺りを見渡すもそれらしい人影はなく、彼の疑念は深くなるばかり。 (気のせい、やろか?) そう思ってはみるも釈然としない。がしがしと頭を掻いていると、誰かが近付いてくる足音が耳に入った。 「芝山君、どうかしましたか?」 「あ、瀬田さん」 瀬田と呼ばれた男性は、芝山の様子を不思議そうに見ている。濃紺の着流しに目線を向けると、芝山は小さく唸った。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!