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待庵、縁側。
手入れが行き届いた庭に面した其処に、黒い塊が転がっている。
「………」
そして、その傍らには呆れた様子の黒色。切れ長の目に塊を映し、深く息を吐く。
「貴様は何時まで寝ている心算だ」
呟くも塊は微動だにしない。何時もの事ではあるが、荷物を抱えた黒色は少しばかり困っていた。
師に頼まれ片付けを手伝っていた彼は、その塊の傍らに在る部屋に用事がある。しかし両手が塞がっている彼には障子戸を開ける手立てがない。
「手伝え、牧村」
呼ぶも塊は動かない。
いっそその身に荷を落としてやろうか…眉間に皺を寄せ手の力を抜き始めたところで、誰かが黒を呼んだ。
「義兄上、お手伝い致しましょう」
「…長房か」
黒色を「義兄」と呼んだ男もまた、黒色だった。修道服に身を包んだ長身は黒色に歩み寄り、目的の部屋への道を開く。
荷で塊を押し潰すのは容易いが、その中身は師の物だ。黒色が思い至り荷を抱え直すと、彼の前髪に幾筋か混じる金糸が光を反射し煌めいた。
「助かった」
「牧村さんもお疲れのご様子。偶には飴も必要かと」
「……」
お前が言うのか。金糸の言葉は飲み込まれた。
長房と呼ばれた修道服の男は笑みを絶やさぬまま言葉を続ける。
「その中身が砕けたとして、得られる物は先生の落雷のみでしょう」
「今日は随分と甘いな」
金糸の言葉に、修道服の男は同じ言葉を繰り返す。
偶には飴も必要だと。
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