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「押して駄目なら引いてみろ、とも言いますね。先生にも『お前と古田は最近度が過ぎている』とのお言葉を頂いてしまいましたし」
「俺を巻き込むな」
「此れも主の御導き…」
「其れで全て解決しようとするな、とも言われていなかったか?」
手の中の荷を置くと小さく畳が軋んだ。
両手に残る埃を払いながら、古田は修道服を振り返る。室内に居る彼を覗き込む義弟は相変わらずにこやかだ。
「…お前は」
呆れ呟く古田の声は、途中で遮られた。
それは高山も同じ。二人の視線はほぼ同時に、黒の塊に向けられた。
正確には塊の向こう側。庭に。
「……義兄上も、お気付きでしたか?」
問われた古田は頷く。
鼻先を掠めた甘い香り。風に乗って室内に流れ込んだ其れは、外に近い修道服にはより鮮明に届いていた。
「香の香りでしょうか…一瞬で、消えてしまいましたが」
ふわりと香り、風に解けた甘い香り。
花の香りとは異なる甘さに、二人は首を傾げるばかり。
「如何されたのですか?高山さん」
その空気に入り込むのは濃紺と抹茶。
掃除用具を片付けて戻った彼らにも、縁側の異変は伝わったらしい。そして其れが『何』なのかも。
芝山は縁側に歩み寄ると塊に手を伸ばす。
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