神話の森

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「―――――朔月。準備はよろしいでしょうか?」 宮殿の裏門に足を踏み入れようとしたところで、先ほどの声が再び自分に向けられる。 伏せていた視線を持ち上げれば、顔を狐面で隠した妖が、宮殿への入り口で待っていた。 頭部には自分と同じ大きな狐の耳があり、背からも同じ豊かな白尾が見え隠れしている。 耳と尾と、同じ真っ白な髪は艶やかで、伸びたその髪を後ろで一括りにまとめている。 朔月と一族を同じとするその妖狐の男は、彼女よりも少しだけ年上だが、ずっと自分の従者としてこの世界に一緒に住んでいる。 が、記憶の中の彼は、始終狐の面など付けていただろうか。 「髪を結い直しましょう。こちらへ」 促されるまま宮殿の自分の部屋へ入り、備えられている椅子に腰かける。 大きな鏡に映るのは白い白い自分の肌と、黒く流れる真直ぐな髪。 違和感をぬぐえず、視界を閉ざすと、男の指が髪に触れるのを感じ、やっと緊張していた心が、解れて行く気がした。
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