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先ほどの豪奢な長絹姿では無く、貴族の姫が着る様な白を基調とした涼しげな細長姿。
「体調に異常はございませぬか?」
そう言いながら伸ばされた朔月の手を素直に受け入れれば、ひんやりとした女の手が望月の額に触れた。
「―――いや、大事無い」
「そうですか」
言葉と共にあっさりと離れて行く朔月の手を目で追うと、望月の熱を確認した彼女が安堵したように微笑むのが見える。
「有明…は…?」
彼女が現れた事で、ここに来るまで一緒に居た自分の恋人の姿が無い事が気になり、辺りを見渡すが、気配すら感じられない。
「有明…殿は、先に祝言の儀式に入っていただいております。
一族の決まり事で、花嫁は七日間浮世から離れて身体の不浄を拭わねばならぬ事になっております。
それまで有明様との御目通りは敵いませぬ。
それまで望月様はご自由になさっていて構いませんので、
もし邸を御出になられたい場合は私めかこの繊月にお申し付け下さりませ」
「俺は何もしなくてよいのか?」
「えぇ。
女の準備とは何事に関しても長いもの…
この地の煩わしい掟だとでも御考えくださりませ」
困ったように笑う朔月に、掟であれば文句を言うわけにもいかず、望月は素直に頷く。
「その間望月様には退屈をさせてしまうかもしれませぬが、
出来る限り御傍には着く様にさせていただきますので、何なりとご命じください」
申し訳なさそうにそういうと朔月は繊月を伴って、望月に向けて深々と頭を下げた。
「本日はお疲れ様でございましょう?
ここは私と繊月の私用の庭。
わたくし共以外は誰も出入りは致しませぬゆえ、御好きに御使いください」
それだけ言うと、朔月はゆっくりと立ち上がった。
朔月が立ち上がったのを見て、繊月もスラリと立ち上がる。
そして、再び頭を下げると、そのまま二人で部屋を出て行った。
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