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独りになったところで、望月は漸く一息をつく。
そこで思いの外自分の肩に力を込めていた事を知る。
大きく身体を伸ばした所で、部屋を初めて見渡した。
広めの空間に必要最低限の調度が置かれて質素だが品が良い。
寝かされていた布団から起き上がり、先ほど二人が出て行った障子戸の方へ足を進める。
障子の向こうには小じんまりした庭が造られており、緑豊かな木々が育ち、静寂の世界に獅子脅しが時折凛とした音を響かせた。
部屋から出て廂に腰をおろし、ぼんやり庭を見つめて、今までの経緯に思いを飛ばす。
有明と出会ったのは年端も行かない幼い子供の頃。
自分の暮らす村に彼女が突然やってきたのだ。
同い年ぐらいの少女はボロボロな姿で、村の外れの芝の上に気を失って倒れていた。
気付いた大人達が慌てて解放したが、目覚めてわけのわからない状況に陥った幼い少女は盛大な泣き声を響かせた。
倒れていた理由を聞いても幼い少女は唯泣きわめくだけで要領を得ない。
何を尋ねても首を振る少女に、手を差し伸べたのは、村でも裕福な家持ちだった望月の両親だった。
彼女を引き取り、両親は歳の近かった望月に面倒を見る様に言いつけ、それから奇妙な共同生活を始めることとなった。
それからは一緒に成長し、寝食を共にし、その間有明は自分の境遇について話す事はけして無かったし、こちらも聞く事はしなかった。
一番傍で付かず離れず育った男女が恋仲に発展するのには何の障害も無く、自然の成り行きの様にそうなった。
ここに来る事になったのは、祝言を上げようとなった時、そこで初めて有明が故郷に帰りたいと言いだしたからだ。
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