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止めた思考が動き出したのは、その声を聞いた後から。
閉じていたのか、暗い視界に瞼を開ければ、やっと視界が明るくなる。
どれだけ視界を閉ざしていたのか、ぼやける視界の向こうに鮮やかな色彩が映り込む。
眠っていたのか、起きていたのか、聞こえた声以前の記憶が定まらず、女はぼんやりと視線を動かした。
「朔月?」
名を呼ばれ、女は自分の名前が『朔月』である事を思い出す。
重い身体に視線を落とせば、身体も長い髪もぐっしょりと濡れていて、広い湖の真ん中にぽつりと自分が立っていた。
澄んだ澄んだ水の中。
沈んだ自分の足の指先まで見渡せる、
「――――――私、なに…してる?」
茫然と佇んで、後ろに立つ声の主に聞こえるか聞こえないかぐらいの掠れた声が口からもれる。
「『禊』を行っておいででした。
戻られるのが遅かったので、様子を見に来た次第です。
…朔月?どうかなさいましたか?」
おかしなことを呟き、微動だにしない自分に、声の主は不思議そうにしながらも経緯を教えてくれた。
「………戻ってくる……って?」
記憶を辿り寄せようと必死で思考を働かせるが焦った頭はまともに働いてくれず泡を掴むかのようにすり抜けて行く。
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