13人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
「そんなに恐縮なさらないでくださいませ。
貴方様は私共にその様に畏まらなくてよろしいのですよ」
「…?」
「いえ、此方の事です…。お気になさらず」
朔月に言われたことの意味が良く理解できずに今度は望月が不思議そうに首を傾げた。
が、それも朔月の静かな微笑みに流されて、追求することもできない。
「隣の座敷でお待ちしておりますゆえ、用意が出来ましたらお越しください」
立ち上がって朔月は一礼すると、そのまま静かに部屋から出て行った。
その背を見送ってから、周囲に視線を戻すと、自分のものだと思われる着替えの用意がされていて、望月は慌てて朔月の消えた廊下へと視線を戻す。
しかし、彼女の姿は既に消えていて、望月は小さく一礼してから、座っていた布団から立ち上がった。
布団を畳み、部屋の端に寄せてから、一度身体を大きく伸ばしてみる。
と、長時間横になっていた身体がポキポキ音を鳴らした。
そんな自分の身体に苦笑して、用意されていた手拭を持って、庭に下りて片隅にある井戸から水を汲んで桶に移すと、手で掬って顔を洗う。
「冷てぇ」
起きたばかりの感覚には井戸の水は冷た過ぎて、一気に思考が冴えわたって清々しい。
濡れた顔を手拭で拭って、部屋に戻ると、乱れた髪を結い直して、用意された着物に袖を通した。
最初のコメントを投稿しよう!