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それは質素な色目の、だけど仕立ての良い布で作られたもので、何故か自分の為に仕立てた様に身体に馴染む。
同じように高価そうな帯が用意されていて、村育ちの自分には場違いで、着てみたが落ち着かない。
確かに朔月が着ていたものも、繊月が着ていたものも質素ではあるが高価なものだったと思い浮かべる。
女の身で、しかもあの若さでこの村の長だと言う事も、何処か浮世離れした佇まいも、何もかもが不思議で、望月は朔月の先程の立ち姿を想い浮かべた。
簡単な小袖に、やはり公家貴族の様な袿を羽織って、長い黒髪を床にまで流している。
狐の面は半分が隠れてしまっているが、見える半分の容姿は整っていて、透き通る様に色が白かった。
そこまで思い出して、頬を触れられた時の彼女の手の冷たさが蘇る。
簡単に折れてしまいそうなぐらいの手に、ひんやりとした感触。
自分はその感覚を何故か知っている様な気がして、思わず触れられた頬に手を当てた。
自分のそれは彼女のものとは違ってほんのりと暖かい。
---……クス…クスクス…---
お前は…それを思い出したら、やはりそちらを選ぶのか?---
「な?!」
突然聞こえた声に驚いて望月は弾かれた様に背後を振り返ったが、そこには何の気配も無く、ただひっそりとした部屋が広がっているだけ。
気のせいにしては何処かはっきりと聞こえた声に、望月は暫く気配を探っていたが周りには何の気配も無く既に声も聞こえない。
「……空…耳??」
---…クスクス…---
一人ボソリと呟けば、再び鈴を転がす様な笑い声が聞こえた気がして、望月は勢いよく廊下の方へ視線を向けた。
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