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遠くで妖達の喧騒が聞こえてくる。
もうすぐ儀式を始めると言うのに、自分はこの湖から動けないでいる。
雨を降らせる指示を出してしまった。
現世では既に晴れの雨が降り始めているだろう。
時間が迫っていると言うのに身体は固まって一向に動いてくれない。
何も纏っていない身体は冷たい湖の水に熱を奪われて感覚が消えている。
「------行かなくては…」
思い切って片足を踏み出してみる。
すると思いの外スルリと動いた足に、続けてもう片方の足も踏み出す。
後は勝手に足が水際まで身体を連れてきて、水から出た時に、やっと決心がついて、朔月は完全に身体を水から切り離した。
用意されている布で濡れた髪と身体の水滴を取り、大きな布を羽織ると、冷えた身体に少しだけ温もりが戻ってくる。
もともと体温は低い方だが、冷えた身体を温める衣の暖かさに、やっと一息吐きだした。
身体中の水滴を丁寧にとり、髪を拭き、手早く襦袢を身に纏う。
その上に小袖を重ねて、水滴を取って湿った長い黒髪に櫛を通す。
髪に触れた瞬間、小さな違和感を感じ、流れるそれを再度見返すが、その正体が分からず、朔月は振り切る様に髪を纏め上げた。
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