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「あんたね……人の話、聞いてんの? 私はここに……」
「仕事に来てるんでしょう? 俺もだよ」
「え?」
それは一瞬の隙だった。
その隙をついて、男がマチルダの手首を掴み、強引に中央に引っ張って行った。
「ちょっと!? 何すんの!?」
抗議するマチルダを無視して男がマチルダの腰を引き寄せる。
と、同時に新たな曲が響き渡る。
軽妙でいて、何処か哀切なそのメロディー。
ピアソラの――『LiberTango』――
男がふっと笑う。
「『LiberTango』か……。ねぇ、知ってる?」
男がいたずらっ子のような顔して、マチルダに聞く。
「LiberTangoを生んだピアソラ。彼はね……その斬新な手法で『革命児』って呼ばれ賞賛された」
けれど……と続ける男の言葉にマチルダが答える。
「けれど……その斬新すぎる手法が既存の体制を崩し……『破壊者』と罵られた」
それ故に……祖国を追われた――天才。
そしてその自由奔放な曲筋を恐れられ――粛清時、全ての楽譜が処分されたと言われる――『禁曲』
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