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視線を感じた。
怪訝に思い、視線の方向を見る。
その先に居る一人の男を視界に認めた時――マチルダの全身に緊張が走った。
上背のある細身の身体。けれども華奢という訳ではなく。
夜風にさらさらとなびく黒い髪。
少年のようなあどけなさを残しながら、精悍さも併せ持つ美しい顔つき。
上質なタキシードの良く似合う、貴公子を思わせる男。
だが、その男から放たれている僅かな――本当にごく僅かな空気なのだが――その中に自分や寒波の持つ同等の“闇”を感じ取って居た。
(この男……何者?)
警戒心を気取られないように平静を装うが、男から目が離せない。
男がマチルダに向かって微笑んだ。
その“微笑み”を見て確信する。
この男は――自分や寒波と同じ位置に居る男。
ダークサイド側の男だと。
ゆっくりと男がマチルダに近付いて来た。
平静を装いながら、油断なく構えるマチルダに男が微笑みながら、良く通る声でこう言った。
「ねえ……。空を見て。星が……泣いてるんだ……」
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