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ただ、その“何か”の正体が掴めず、もどかしい。
「俺は……そうだね。“宮廷楽士(ドレバドール)”とでも言っておこうか」
宮廷楽士……。何処までもキザな男だとマチルダは思う。
「あんたは?」
「え?」
「教えてよ、あんたの名前」
そう言われて、マチルダも負けじと笑顔を返す。
「そうね……。私の事は“女騎士(ヴァルキリー)”とでも呼んでちょうだい」
「男を死の国に誘う……女騎士、ね。怖い女」
皮肉を言いながら笑う男には何も答えず、マチルダはその場から離れようと動いた。
「……何処に行くの?」
そう問う男――宮廷楽士にマチルダが笑顔で答える。
「私ね、ここには仕事しに来てるの。パートナーを探してるなら他を当たりなさい。宮廷楽士さん」
余裕綽々と見せながら、その実、マチルダはこの得体の知れない男から早く離れたくてたまらなかった。
マチルダはそれだけ言うと、男の答えも聞かず、さっさとその場を離れたのだった――
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