ダークホース社 シェード

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ダークホース社 シェード

採用試験は一発合格と意気込んで受けた会社はあっさり撃沈。 その後も別の試験で受かるがまもなく倒産、不採用、不採用、倒産、不採用、倒産… 私は人生のどん底にいた。 その内、仕事への意欲も損なわれてしまった。 何故私ばかり不幸に見舞われるのか。 何故世の中はこんなにも理不尽なのか。 公園のベンチに独り項垂れる私はふと、空を見上げた。 「…私、意味有るのかな」 ポツリと呟いた一言はサンサンと晴れたあの憎い青空に消えていく。 「在りますとも」 消えていくはずだった言葉に答えが返ってきた。 青空を見上げていた私は声のする方を見てみる。 そこには立派なスーツを着た男が隣に座っていた。 「…なんですか?急に」 「いえ、少し気になりましたので声を掛けました」 「ふぅん…」 私にはどうでも良かった。 この男が詐欺師だろうが、変な宗教の勧誘だろうが、何だろうが、私にはもうどうでも良かった。 「もしかしてZ社をお受けに?」 「え?あぁ、そうですが…」 男の勘が鋭いのも、 「もしかして、受かったのですか?」 「見事に落ちましたよ」 男が心配そうに言うのも、 「それは良かった」 「……へ?」 どうでも良い、はずだった。 「あそこの会社、新人いびりが酷いんです」 「どうして知ってるんですか?」 少しだけ男に興味を持った。 「いや、あそこにいたんですけど、自殺者が絶えなくて…。だから人が少ないんですよ」 「そう…だったんですか」 私もその中に入ったとしても死んでいたかもしれない。 そう思うと背筋が冷たくなった。 「貴女は不幸なんかじゃありません、ラッキーですよ」 「ラッキー?」 「はい」 にっこりと微笑む男につられ私も微笑む。 「そうだ!これも何かの縁!」 そう言って胸元から取り出したのは名刺。 「私、こう言う者でして、よろしければ是非我社に来て下さい」 私は受け取り名刺を読む。 全く聞いた事のない社名。この男は秘書だと書いてある。 「あの、私」 顔を上げた時には男はいなかった。
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