Dahlia

4/8
前へ
/8ページ
次へ
彼女が施設にやってきたのは、私がまだ二十歳そこそこの頃だった。 彼女はまだ5つだった。 他の子どもたちに倣い、私の事を『先生』と呼んだ。 傷を負った彼女の心はとても不安定だった。 なるべくそばにいて気にかけていなければ、いつ消えてなくなってしまうかも分からない危うさがあった。 10歳の誕生日を迎える頃には、私の呼称が『お父さま』に変わっていた。 実際親子と間違われてもおかしくはない程度の歳の差はあったし、その呼び方は彼女が私に心を開いた証拠でもある。 そして15歳、何故かまた、私は『先生』に戻った。 この頃には彼女にはもう、大人の女性の美しさの片鱗が見え始めていた。 一般的な子どもと比べて、施設で育った子は極端に早熟かその逆である場合が多い。 たまたま彼女は前者なのだと、思っていた。 彼女が施設の子どものひとりとしてではなく、私にとってひとりの『女性』として見え始めたのは、高校卒業が近づいた頃からだ。 私はこの時、既に30代も半ばになっていた。 赦されない想いを悟られないように、それ以上育たないように、自制するのがやっとだった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加