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彼女が施設にやってきたのは、私がまだ二十歳そこそこの頃だった。
彼女はまだ5つだった。
他の子どもたちに倣い、私の事を『先生』と呼んだ。
傷を負った彼女の心はとても不安定だった。
なるべくそばにいて気にかけていなければ、いつ消えてなくなってしまうかも分からない危うさがあった。
10歳の誕生日を迎える頃には、私の呼称が『お父さま』に変わっていた。
実際親子と間違われてもおかしくはない程度の歳の差はあったし、その呼び方は彼女が私に心を開いた証拠でもある。
そして15歳、何故かまた、私は『先生』に戻った。
この頃には彼女にはもう、大人の女性の美しさの片鱗が見え始めていた。
一般的な子どもと比べて、施設で育った子は極端に早熟かその逆である場合が多い。
たまたま彼女は前者なのだと、思っていた。
彼女が施設の子どものひとりとしてではなく、私にとってひとりの『女性』として見え始めたのは、高校卒業が近づいた頃からだ。
私はこの時、既に30代も半ばになっていた。
赦されない想いを悟られないように、それ以上育たないように、自制するのがやっとだった。
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