Dahlia

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何故、あの時――。 追憶を中断し現実に思考を戻せば、誓いのキスをと神父が2人を促す瞬間であった。 彼女のベールがマリアベールであったことに感謝する。 新婦が僅かに膝を降り新郎がベールを持ち上げる、という嫌なシーンを見ずに済んだから。 他の男の唇が彼女に触れる瞬間を、ベールがしっかりと隠したから。 祝福を、と神父が宣言する。 参列者は皆微笑みを湛え、2人の為に祈りを捧げた。 私以外の、皆。 『出ていきなさい。この施設へも、もう戻ってきてはいけない。君は勘違いしているだけだ』 『先生、私は』 『私は君の保護者だ、父親だ。そんなことにはなり得ない。きちんと外へ出て、きちんと周りへ目を向けて、他の男性とまっとうに付き合いなさい』 『先生!』 『もう一度言う、出ていきなさい。君の幸せは、ここにはない。外へ、出なさい』 あの時の彼女の絶望した顔を、私は一生忘れない。 部屋を出る前、立ち止まり振り返った彼女は言った。 『それでも私は、あなたのことだけを、ずっといつまでも想っています』
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