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「なぁ、水野」 「はっ、はい」 「俺の生徒手帳知らねーか」 「み、見てないです……」 話し掛けられ、返事する声が裏返ってしまった。 変な声、出た。 だって、森山くんが、犯人を見るような目で、ギロリと睨むから……。 いつものことだけど、慣れることはない。 ……怖い。 チャイムが鳴り、立っていた生徒は自分の席に戻っていく。 「一時間目始めますよーっ」 担任の女性教師が教室に入ってきて、森山くんもそれを機に生徒手帳探しを諦めた。 いくら探したって、見つからないよ。 だって、あなたが無くしたものを持っているのは、隣にいる私なのだから。 机の中に手を入れ、皮で出来た手帳の表紙のスベスベとした感触を確かめた後、ため息をついた。 ……一週間前、なぜか机の中に、森山智宏くんの生徒手帳が入っていた。 誰かが拾って、間違って隣の私の机の中に入れてしまったのかもしれない。 返すに返せなくて、それからずっと困っている。 なぜなら、私は、森山くんのことが苦手……なのです。
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