3266人が本棚に入れています
本棚に追加
*
放課後。
帰りの支度をしようと、机の中に手を入れた。
「あ……」
少し忘れかけていた手触りに、声を漏らす。
「なに?」
森山くんが、本を開きながら、顔だけこちらに向ける。
「あっ、ううん、ちょっとママから言われた用事思い出しちゃっただけで……」
もちろん、嘘。
再び本に意識を戻す森山くんを確認し、革の手触りを感じたままそっと机から手を引き抜く。
生徒手帳……。
本当に、いい加減返さないと……。
話すら出来なかった頃の私なら、これだけのことが凄くハードルが高かった。
だけど、笑って話せるようになった今なら。
「森山く……」
「智宏ぉー! あんた、今日うち来るー?」
遮ったのは、彼を呼ぶいつもの明るい声。
最初のコメントを投稿しよう!