***

38/70
前へ
/70ページ
次へ
* 放課後。 帰りの支度をしようと、机の中に手を入れた。 「あ……」 少し忘れかけていた手触りに、声を漏らす。 「なに?」 森山くんが、本を開きながら、顔だけこちらに向ける。 「あっ、ううん、ちょっとママから言われた用事思い出しちゃっただけで……」 もちろん、嘘。 再び本に意識を戻す森山くんを確認し、革の手触りを感じたままそっと机から手を引き抜く。 生徒手帳……。 本当に、いい加減返さないと……。 話すら出来なかった頃の私なら、これだけのことが凄くハードルが高かった。 だけど、笑って話せるようになった今なら。 「森山く……」 「智宏ぉー! あんた、今日うち来るー?」 遮ったのは、彼を呼ぶいつもの明るい声。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3266人が本棚に入れています
本棚に追加