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少年は一、二分で深呼吸を終えると、ゆっくりと立ち上がり恐る恐るビルの影から顔を覗かし周囲の状況を確認した。が、先ほどと同様、道路や建物内にも人影はなくこの街にはもう彼しかいないのではないかと思うほどに静まり返っている。それでも彼は警戒を怠ることはなく見えない何かを見るような鋭い視線を空虚な街に飛ばし続けていた。
だがその時だった。
「…グハゥッ!」
突然背中に走る今までに経験したことのない痛み。彼の意識が一瞬この世から飛んで逝ってしまうほどの深く重い激痛。
「クソ…遠距離なんて反則だろうが…」
少年は左手で背後の痛みの原因を探る。それは背中のほぼ中心に深々と刺さった棒状のモノ、彼には自分に刺さっているものが瞬時に何か分かった。いや、もう刺さる前から自分が何で襲われるか分かっていたのかもしれない。背中に刺さったそのモノは間違いなく弓から放たれた『矢』であった。それを悟った時に再び意識が飛び崩れ落ちそうになるが気合でグッと立ち堪える。その間にも大量の血液が背中をつたって下へ下へ流れていくのを衣服に染み込む血の温度で感じる。
「フハハハ!随分辛そうじゃないか!良かったら手を貸そうか?ふふふ…」
細い路地に中傷に満ちた笑い声が響いた。少年は明らかに慈愛の意思が全く感じられない声の方へ振り返りその声の主を肉眼で確認する。
そこには少年と同じ年くらい男性がいた。歳だけではなく身なりもほとんど代わりない、全く同じ学生服を着ている。大きく違っているのは手に握られた長さがその人物自身の身長と大差ないような大弓、背中に背負われている矢を十本ほど入れた矢筒、そして女子のように長く、留め具で一纏めにされている銀の髪くらいだろう。
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