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「君すばしっこいからさぁー回り込むの苦労したんだよ?でもまぁ僕の視界に入ったら確実に射抜けちゃうから問題ないんだけどね?ふふふ」
顔にかかる前髪を掻き上げながら悦に入ったような口調、不毛で一方的な話を続ける様子から彼の普段からの人物像が少し伺える気がする。
「…うるっせーなキザミ・・・てめぇの馬鹿みたいな笑い声なんとかなんねぇのかよ。頭に響いてウザイんだよ・・・」
息を荒げ前かがみの体制になりつつも少年は恐怖とは対極の力強い眼差しを真っ直ぐそのキザミと呼ばれる男に向けていた。その眼差しは例えるなら大和の魂を持つ侍のように芯をしっかり持ったものだ。とたんにそれを受けたキザミの顔からスゥーっと笑み消えた。先ほどのご機嫌さからは想像もできないような、まるで万物を見下したそんな冷たい顔つきへと変わる。
「お前なに言っちゃてんの?俺が・・・馬鹿・・・だと?調子乗ってんじゃねぇぞこのド底辺がァ!!」
彼の中の怒りスイッチを押してしまったのか、キザミは声を大きく荒げ怒鳴り散らすように罵声を飛ばす。
「いいか!よく聞けこのタコッ!俺は学園内でもトップクラスの学力!弓道に関しては日本一!いやもう世界一と言っても過言じゃねぇ!!そんな俺に対してお前みたいな三下がなに抜かしてんだ!!」
「・・・いや、馬鹿だよお前・・・」
罵声のマシンガンを遮るかのように少年が口を挟み込む。
「一発当てたくらいで何油断してんだよ?確かに俺はこの怪我じゃ全力は出せない。けどな?それでも弓道部のお前となら近接戦では負ける気がしねぇ。弓道部がのこのこ前戦に出てきてんじゃねぇよ・・・」
そういうと少年は両手で竹刀を体の中段付近で構える。凛とした立ち姿、しかし背中の痛みのせいか額には汗がにじみ息もまだ少し上がっている。それでも彼の姿は実に勇ましかった。
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