ゼロ距離

8/18
前へ
/157ページ
次へ
「高尾…?」 不思議そうに見つめる緑間を見て、 意地悪したい、 オレだけにしたい、 と考えてしまった高尾は片手で緑間の頭を引き寄せた。 あと、もう少し、 ゼロ距離になるまであと少し。 ふと何も考えられずにいた。 今のことも、これからのことも。 ただ、己の本能のままに動く自分が居るだけだった。 しかし、 あと数センチというところでふい、と顔を背けられた。 その事に驚き、そして自分がしようとしたことに後悔した。 「ごめっ…!」 ばっ、と緑間から離れ咄嗟に出たのは謝罪の言葉だった。 違う、そんなことを言いたいのではないのに。 どうして、避けたの。 やっぱり、嫌? 罪悪感と、悲愴感。 緑間は自分の荷物をとり、ドアへ向かった。 「…外で待っている。」 そう緑間は言い残し、パタンと閉じた音だけが部室に広がった。 取り残された高尾はすとん、と床に座り込み、体を抱えた。 「なんでっ、優しさなんかいらねぇのに…っ!」 どうせだったら責めてほしかった。 こんなことをするなと、 気持ちが悪いと、 ズタズタに引き裂かれてしまえば、あとは忘れるだけなのに。 なのに… 「好きだっ…!」 こう思ってしまうのは、お前のせいなんだ。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加