ゼロ距離

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─────── あれから。 日々は何事もなく過ぎていった。 そして、緑間と高尾の関係も何も変化はなかった。 どちらもあの時のことは触れない。 触れることが出来ずにいた。 「真ちゃん、行こーぜ。」 いつも通り、教室へ迎えに行き、 いつも通り、部活をする。 そしていつも通り、一緒に帰る。 何も会話はない。 歩くだけの帰り道。 もともと高尾が一方的に話して、そして緑間は相槌を打つだけの帰り道だった。 たまに笑ったり、話したりもするけれど、緑間から話を振ることはなかった。 ただ、オレが話さなくなったから。 別に一緒に帰らなくても良かったのかもしれない。 だが、それはなかった。 互いに何も言わなくても、一緒なのは変わらなかった。 (これで、いい。) きっと、この想いは消えていく。 以前の関係に、戻るんだ。 ただのエース様とその相棒に。 それがいとも簡単に崩れたのは、ある日の放課後だった。 「練習再開するぞ!」 大坪の声で一斉に動き出した選手たち。 しかし、一人だけ見当たらない者がいた。 「あれ?緑間は?」 何時もなら大坪さんの声がかかる前に練習再開に向かう緑間が居ない。 その事に気付いた大坪は、辺りを見回した。 だが一向に現れる気配はない。 「…たく、何やってんだあの野郎。撲殺すんぞ。」 宮地がいつものように毒を吐き、緑間を探す。 滅多にこんなことは無い。 と言うより、今まで練習を抜けるなど無かった。 「あの、オレ探してきます。」 「ああ、頼む。」 高尾は大坪にそういい、靴に履き替えて緑間を探しにいった。 「真ちゃーん?」 いつも顔を洗う水道の所にも緑間の姿は無く、体育館裏まで歩いていった。 すると、何か話し声が聞こえ、もしかしたら、と考え顔を出してみるとそこには確かに緑間の姿と、 あの時の女の子があった。 辛そうな表情を見せた女の子の姿が。 何を話しているのか気になり、高尾は緑間から姿が見えない所に隠れた。
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