To Love Mail

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「玲央、ありがとう。」 実渕に礼を言うと、返事をするかのように微笑んだ。 「そうだ、征ちゃんの荷物持ってきておいたわよ。」 そう言った実渕は部屋の角にある机まで行き、置いてあったバッグを手にとり赤司の所まで持ってきた。 「慌てて持ってきたんだけど、これで大丈夫かしら?」 「ああ、大丈夫だよ。」 体を起こし実渕からバッグを受け取って、中身を確認した。 「……携帯がない。」 「え!?」 何時もならバッグに入れておくのだが、今日に限ってあの時羽織っていたジャージに入れていた。 監督から連絡が来るかもしれない、と踏んでいたことがこうなるとは。 おそらく倒れたときに落としてしまったのだろう。 取りに戻りたいが、体がそれを許してはくれなかった。 今動いてしまったら悪化するのははっきりと分かる。 これ以上悪化するのは良くない。 明日取りに行くしかないだろう。 「取りに行ってくるわ。」 その言葉にぱっと顔を上げた時に見えたのは、実渕の笑みだった。 「いや、そこまで迷惑をかけられないよ。」 「やーね、迷惑だなんて。気にしないでちょうだい。それに…連絡取りたいでしょ?」 少しからかうような笑みを向け、じゃあ、と残して実渕はドアへ向かった。 「…ありがとう。」 今日は実渕に感謝するばかりだ。 頼ってしまう申し訳なさと思いを理解してくれる嬉しさ。 二つの感情が混ざった礼を言うと、実渕は振り向いて手を上げた。 そして実渕の姿がドアの向こうへ消えた。 「…はあ、」 暫く起き上がっていたせいかまた頭痛がしてきた。 倒れこむようにベッドへ横になり、段々閉じていく瞼に逆らうことなく赤司は眠りについた。 『…かし、…あ、かし』 ───── 君は誰だ? 『…ご……んね…』 ───── 何故そんな顔をする? 『 』 ───── 待ってくれ 遠く、とおく、 その姿は離れていった。
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