射手

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 コーヒーをすすると、今になってテレビに目を向ける。テレビのニュース番組が芸能ニュースの放送を終え、事件性のあるニュースに切りかわったところだった。  中年の白人男性が、神妙な面持ちで原稿を読み上げていく。 「はじめに、先日最高裁判所で、公共機関がキメラ症患者の入場や利用を拒否できるという判決が出た裁判で――」  このニュースは興味のあるものではあったが、党で散々話を聞いている。それに今は頭が働かない。それより今は何か口にしたい。スプーンでシリアルをすくって口の中へと運ぶ。シリアルのサクサクとした歯ごたえがいい。  もう一口目をスプーンですくったところでふと、さきほどの資料で読んだ、キメラ症患者と健常者の行う競技の違い、という言葉が浮かんだ。すこし変形すれば、キメラ症患者と健常者の違い、になる。そういえば、テレビに映っている裁判所の前のハトは、くちばしで盛んに地面をつついている。街路樹から落ちた木の実でも食べているのだろうか、やや不器用な感じだ。同じような面構えの自分は、ちゃんと噛んで食べている。そういえば、自分のクチバシには専用の差し歯のようなものが植わっているのだった。たしか自分の細胞から何かの技術を使って作ったものだったか、ちゃんと歯磨きをしないと虫歯になる代物で、さっきの文章にあったような違いなど見当たらない。クチバシの端にも唇がわりの柔軟な組織がはめられ、食事には難儀しない。施設にいたころ、これを党の補助金で体に入れる前はそれは粗悪な矯正具をつけ、コーヒーも温かいものをストローで飲む始末だった。それでもテレビのニュースのように権利は認められないのだろうか――。  その考えに詰まって、一瞬ぼーっとしてしまったあと、見てみればスプーンからシリアルはすっかりこぼれてしまっていた。再度すくって、味わう。そして気付いた。先ほどまで読んでいた資料には、食生活に注意するよう書かれていたのだ。すっかりそれを忘れていて、思わず苦笑するが、メニューを変えるのは明日からにしようと決めた。 「続いては、今朝、市内のホテルで、民主和党の党員が遺体で発見された事件についてです。発見された遺体は、与党である民主和党の…」  ニュースは続く。画面は、昨日見た事件現場の光景。端っこには、豪雨の向こうに見たスーツの男の顔が映されていた。
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