0人が本棚に入れています
本棚に追加
「…貴方らしい理由ですね。確かに、雨の日ほど悲壮感が高まりますね。」
先ほどまで真面目な表情をしていたクロヴィスは、悲しげな微笑を浮かべている。こいつは、いつものように笑っているつもりだろうか。
ふと、クロヴィスが天井付近にある小さな窓を見た。
つられて見ると、先ほどから話題にしていたものが見える。
「雨、ですね。いつもより強いですねぇ。」
「そうだな。…嵐でも来なけりゃ良いが。」
クロヴィスは「コーヒー淹れますね。」といってテーブルから立ち上がり、キッチンにあるインスタントのコーヒーを取り出している。
そんな光景を見ながら、再び俺は小さな窓に目をやる。
…なんだか、胸騒ぎがする。
ザァ…という雨音と、クロヴィスが沸かしている湯の音で、この空間が満たされている。普段よりも静かなせいだろうか…。霧のような不確かな思考が頭の中を制圧している。 その時だ。
「そんなに眉間にしわ寄せてたら、怖い顔のままになりますよ?」
整った顔が台無しですよ、と一言付け加えながら先ほどまでコーヒーを入れていた人物が俺の目の前にカップを置いた。
コーヒー独特の香りと、ミルクの甘い香りが、湯気と共にほのかに香ってくる。それに気づいて、思わずクロヴィスを見た。
いつもはクロヴィスも俺も、ブラックを飲んでいた。度々クロヴィスが淹れてくれる事があるが、その時も必ずブラックを淹れてくれていたのだ。
「気が滅入りそうな時は、甘いものをとるのが一番です。」
そう言ってクロヴィスは優しく微笑んだ。
彼のカップを覗いてみると、俺と同じミルク入りのコーヒーがあった。
「そう、だな。」
思わずこちらも微笑んでしまう。
それをごまかすように、いつもよりも甘いコーヒーを口にした。
最初のコメントを投稿しよう!