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雨の日は、少年兵時代から嫌いだった。
天から降り注ぐ無数の水滴にうたれ、自身のクリーム色の髪や鮮やかな緑色のツナギの様な軍服が必要以上に体にまとわりつくことは、特に気には留めていない。
少し動きにくいとは感じているが、それ以外に不快に思う事など無い。
もっと別のことに不満を抱いていた。
団体の訓練が組まれている日に雨が降っても、訓練は中止にはならない。
軍の訓練なのだから、当たり前である。
戦闘ではどのような気候の中でも戦える、この能力が必要だからだ。
その事は少年だった自分も理解していた。
だが、自主的に行っていた単独の訓練では別らしい。
「フェルド、単独での…雨の中の訓練は危険だ。やめておきなさい。」
「何故です!いかなる気候であっても対応できるようにと思って…。」
「よく聞きなさい。」
いつも自主訓練で使っている廃墟と化したマンション前に行こうとしたとき、上官に見つかってしまったのだ。
その場で雨の日の自主訓練は外ではしないように言われ、抗議していた。
だが、上官はオレの言葉を聞き終わらないうちに少し低めの声で語りかけた。
「雨というのは相手の姿を確認しづらくなる。加えて、足音でさえ周りの水音に紛れてしまうんだ。いくら今が休戦中であっても、必ずしも敵が攻めてこないという保証は無い。」
「…。」
上官の言っている事は正しい。
実際、2チームに分かれて実戦訓練をしたとき、雨に降られてしまった事がある。
その時、相手チームの姿は晴れているときよりも確認が難しかった。
姿は見えるのに、水滴によって暈されてしまっている…そのように感じていた。
また、その水滴自体が地面に触れ、音を立てるだけでなく、半壊してしまった建物から流れ落ちる水、かつて作られた排水路を流れる水、これらの音で足音が紛らわしくなるのだ。
自分達が歩いても、相手が走っても、周りの音と同化し、区別がまるでつかない。
「一人でも訓練に励む事は構わない。だが、お前にはまだ将来があるんだ。」
「…はい。」
渋々、上官の言葉を飲み込んだ。幼いながらに、次々と上げられた不利な点を理解したからだ。
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