じ ゃ が い も

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マンションの三十二階、足も竦むような高さに私の自宅はある。 金はあるが同居人は居ない。全く寂しい男ではあるが、同居『人』は居ないというだけだ。 家の鍵を開け、扉を押し開ける。 「おかえり」と一言廊下の先のリビングから響く。それに私は当然ながら「ただいま」と返す。 リビングへと足を進めると、水の入った小皿の中で浮いているじゃがいもが目に入った。 「暇ね、一人の時間って言うのは……」 「やけに達観したような台詞だな、何かあったのか?」 「何も、することがないのよ。この広い部屋でたった一人、それにこんな高さじゃ何も聞こえない」 こんな調子で話続けるじゃがいも。 そう、このじゃがいもが同居人ならぬ同居芋のメイだ。名前は恐らく、品種のメークインから取っているのだろう。 ちなみに性別は本人曰く女、それも傾国の美女らしい。ただのじゃがいもにしか見えないのは、私の見る目がないからだと信じたい。 「……で、ねぇ聞いてるの?」 「ああ、悪い。全く聞いていなかった、で何の話だ」 「……もう良いわ。貴方に振り向く女性が居ない理由が分かったから」 全く酷いことを言うじゃがいもだが、実際そうだから言い返せないのだ。 そう考えると尊敬したくなるような観察眼だが、そもそもじゃがいもに眼はあるのだろうか。
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