24/40
前へ
/40ページ
次へ
「……」 一瞬、吉川さんの顔が固まった。 そして次の瞬間、ふっとそれが緩み、 「計算じゃないから、すごいですね。 道野さんは」 と、さらっと言われた。 「へ?」 「いえ。 ちょっと失礼」 「え」 ふわっと、正面から吉川さんの両手が伸びて来て、私の首を包む。 ずいっと、吉川さんの顔がドアップになった。 「……っ」 ええっ!? 何っ!? 私は、急なことに硬直し、息の仕方を忘れる。 両肩に吉川さんの両腕が乗っかって、まるでこの体勢は、キ……キッスの……。 ジー……。 ガッチガチに固まった私の顔のすぐ後ろで、金具らしき音がする。 真正面至近距離で、私の顔の高さと同じ位置まで屈んだ吉川さんが、 「正面からなら、後ろ、見えませんので」 と、真っ直ぐ私の目を見ながら言った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4022人が本棚に入れています
本棚に追加