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「あなたはホントに……」
鼻で笑いを含んだ溜め息を吐きながら、左手をすっと伸ばす吉川さん。
私はおどおどとその手にケータイを返し、
「ご、ごめんなさい……」
と謝る。
「いえ、構いません」
吉川さんの言葉に胸を撫で下ろし、早まっていた鼓動を落ち着かせるために視線を窓の外へ移した。
「……」
そして同時に、今の一連の場面を思い返す。
着信画面……、『城田 歩美』
城田……歩美……。
急に背筋に冷たい空気が触れたかのような感覚。
覚えのあるその名前は、今年の春に退職した、私の前任の経理事務責任者だ。
そして……。
「どうかしましたか?」
運転中のため、誰からの電話だったのか確認せずにケータイをしまった吉川さんは、急に黙り込んだ私に不思議そうな声で尋ねる。
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