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店を出て、さりげない照明が灯る、趣のある石畳の小道を駐車場へと向かう。 「御馳走様でした」 一番最初に食事をした時同様お礼を述べると、 「いえ」 と、同じ返し。 「――っ!」 そして、これまたその時と同じように、石畳の隙間に慣れないヒールがひっかかり、こけそうになる。 「あぶな……」 少し呆れたように小さな声で笑う吉川さん。 まるで想定内とでも言うように、スッと私の腕を掴んだ。 そして、そのままその手を私の手まで下ろす。 わっ。 自然に手……つながれてしまった。 私は青くなったり赤くなったり、忙しいったらありゃしない。 でも吉川さんが何も言わないから、私も何も言えず、ただ、半歩先を歩く彼に手を引かれるまま。 吉川さんの一定の足音に対して、カツカツとヒールのまばらな音が石畳に響いた。
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