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夜8時10分前。 自分の部屋のベッドの上。 先日買った足が細く見えるジーンズに、上はフェミニンなゆるめのニット、中途半端な長さの髪はちょっと高めにシュシュで結んだ私が、何故か正座して、読経のような姿勢で携帯を持っていた。 もちろん化粧直しもして、いつもは全くしないネックレスなんてものもしてみた。 以前、葵ちゃんが首をすっきり見せた方が小顔効果もあって色気も増しますよ、的なことを言っていたから、頑張って実践してみた次第だ。 「7時52分……」 さっきから携帯で確認する時刻を1分刻みで読み上げ、その度に大きな深呼吸をしている。 御飯は、もしかしたら一緒に、ということになるかもしれないので、お母さんにいらないと言った。 既に腹ペコだけど、まぁ、このジーンズ、かなりギリギリだからちょうどいい。 「気合入り過ぎてないよね?」 自分の格好をぐるりと見回し、手鏡で顔を覗き込み、あまりにも頑張りました感が出ていないか3度目のチェック。 気合入れ過ぎだとは思われたくない、でも、一番可愛い状態の自分で会いたい。 そんな矛盾した初めての気持ちを持て余し、もう何度目か分からない手汗をハンカチで拭った。 ――と、その時。 黒電話に設定している携帯の着信音が、私の心臓をでっかいシンバルみたいに叩いた。 懲りずにアタフタした私は、ベッドの上で小躍りしながら、マッハで携帯の通話ボタンを押し、耳にあてる。 「もしもしっ!」 『……びっくりしました。 早いですね、出るの』 「すっ、すみません」 『いえ、謝ることではないですが』 1時間前とは違って、吉川さんの微笑が浮かんでくるような少し砕けた感じの御声。
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