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「道野さんは残業ですか?」 「は、はい」 「藤谷部長?」 「そうです」 「大変ですね」 普通過ぎる立ち話。 私、本当にこの人とキスしたのかな……。 無意識に視線が吉川さんの薄い唇にいき、慌てて戻す。 「それでは」 他人行儀に挨拶をして、吉川さんはエレベーターの上矢印のボタンを押す。 え? それだけ? 「あのっ――」 「はい」 あ。 呼び止めちゃった。 何を言うかも考えていないのに。 エレベーターの扉が開き、微妙な空気が流れる。
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